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Dec 18, 2019

石司麻美のハーブ緑茶の世界 vol.6 放置茶園の再生茶「生粋」

静岡はお茶処日本一、と言われていますが、ここ数年、茶農家の後継者が少なくなり、荒れた状態の茶畑(放置茶園、放棄茶園などと呼ばれています)が増えてきました。

お茶の木は地面に対してしっかりと根を張るため、もう使われなくなった茶畑のお茶の木を抜いて別の畑にすることは、大型の重機が必要となり、かなり困難なのです。そのため、お茶の木が抜かれないまま放置される畑が増え、やぶのようになった茶畑が獣害となるいのししの温床となり、元の自然の状態には戻りにくく様々な弊害が出てしまっています。

今から約3年前、私の知り合いの方から、放置せざるをえなくなった茶畑があると聞いて、思い切ってその茶畑を再生させる活動を始めました。私は今まで、日本茶カフェ、製茶問屋でお茶の勉強はしてきましたが、栽培となるとゼロからのスタートです。その畑は約2年放置された状態で、初めてそこへ行った時には、私の背丈以上の草や木が生い茂り、とても茶畑だったとは思えない状態でした。


石司麻美のハーブ緑茶の世界 vol.6 放置茶園の再生茶「生粋」 photo

(茶畑だったとは思えないほど、雑草が茂った放置茶畑)



雑草を抜こうとするたびに、いのししがエサを求めて掘った痕跡と思われる穴に足を取られてしまい、作業はかなり難航しました。


石司麻美のハーブ緑茶の世界 vol.6 放置茶園の再生茶「生粋」 photo

(雑草を抜いて刈って、やっと茶畑らしくなりました)



しかし、問題は雑草だけではありません。

元々、お茶の木は肥料をたくさん必要とする植物。肥料が足りなくなって細く痩せてしまった茶樹の枝は、上に伸びるのではなく、栄養を求めて土へと潜ってしまうのです。一旦上に伸びかけた枝が途中から下へと伸びて根を張ってしまい、肥料を撒く場所を邪魔しているため、その枝の除去にもかなり苦労しました。


石司麻美のハーブ緑茶の世界 vol.6 放置茶園の再生茶「生粋」 photo

(一度上に伸びたが、土へと潜ってしまった枝)



試行錯誤の中、放置茶園の再生を始めて今年で3年目。今年の春には、2回目の収穫を迎え、お茶として約6kg作ることができました。

そんな時、大阪の百貨店『阪急うめだ本店』で行われるケーキショーのティーペアリングの依頼をいただき、その貴重な6kgをティーペアリング用のお茶として仕上げることに決めました。

今年で2回目となるケーキショーの今回のテーマは「チーズ」。日本茶とチーズを合わせるなんて意外に思われるかもしれませんが、日本茶もチーズも旨味成分を豊富に含むので、ペアリングの相性は抜群なのです。

ペアリングの目的として、チーズの持つコクやまろやかさに“なじませる”イメージで、このお茶の火入れ(焙煎)を強めに仕上げたい!と考えました。たった6kgという量では、機械だけで仕上げることは難しく、職人の手仕上げが必要となります。しかも、とても少ない量なので、火入れは一発勝負。そんな仕上げは、10年以上前からとてもお世話になり、信頼する山一山梨商店さんにお願いしました。ケーキショーのテーマや、私のイメージをお伝えし、とても香りの良い、力強いお茶に仕上げていただきました。


石司麻美のハーブ緑茶の世界 vol.6 放置茶園の再生茶「生粋」 photo

(職人による丁寧な手仕上げ)



今回のケーキショーでご提案したティーペアリングメニュー(4種類)は、日本茶をベースにハーブやスパイスをブレンドしたメニューです。そのうち、私が再生に携わったこのお茶を、唯一ハーブをブレンドしないメニューとして、「生粋」という名前をつけました。これらのお茶を、8時間以上じっくりと水出ししてご提供しました。


石司麻美のハーブ緑茶の世界 vol.6 放置茶園の再生茶「生粋」 photo

(ボトルに入れ、ワイングラスで味わっていただきました)



お客様からは、「水出しなのに香りがすごい!」「玉露みたいな旨味と甘味がある!」「チーズにもチョコレートにも合う!」「おかわりしたかった。」などのご感想をいただきました。

約2年、自然に還り、その後、お茶の栽培に不慣れな私のもと、たくましく力強く復活し、山梨商店さんの仕上げによって磨きあげられたこのお茶は、自然の力とたくさんの方々の応援のおかげで、こうして多くの方に飲んでいただくチャンスをいただきました。

私ひとりでは成しえない、多くの体験を通し、本当に感謝してもしきれません。

次回は、ケーキショーでのティーペアリングでご提案した、生粋以外の3種のお茶のご紹介をいたします。