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Jan 30, 2021

林夏子の「はてしないお茶物語」 vol.15  川根の次世代 元町職員の橋本立生さん

林夏子の「はてしないお茶物語」 vol.15  川根の次世代 元町職員の橋本立生さん photo

(たっちゃん農園・橋本立生さん)



銘茶の産地・川根

お茶生産量日本一の静岡県の中でも、銘茶の産地として名高い川根茶。


川根本町は、南アルプス最南端に位置し、光岳(ひかりだけ)・大無間山(だいむげんざん)・黒法師岳(くろぼうしがたけ)など 標高2000メートル級の峰々が連なります。山間(やまあい)を南アルプスに源を発する大井川が流れ、大井川沿いの急な傾斜には茶畑が広がっています。大井川の清流、豊富な雨量、朝晩の寒暖差、立ち上る川霧山霧。これら茶の栽培に適した自然環境から、古くから茶の栽培がおこなわれてきました。


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(霧の立ち上る茶畑[画像提供:川根本町])



いまなお、川根が銘茶の産地といわれるのは、そうした自然環境に加えて、茶の匠たちが、先代から承継した高い技術で、高級茶を作り続けているからです。2020年8月に行われた、2020年度の全国茶品評会では普通煎茶4㎏の部で、川根本町の相藤農園・相藤直紀さんが農林水産大臣賞(日本一)を獲得。他に町内の3名の茶農家が入賞し、普通煎茶4kgの部でも川根本町として産地賞日本一を獲得しました。


川根茶の当たり年といえる2020年。わたしも限定発売の、入賞茶と町内の精鋭12名の茶農家のお茶が味わえるセットを購入しました。そのなかに、ひときわ、香りも味もよい上質なお茶がありました。その名は「川根茶たつお」。生産者は、たっちゃん農園の橋本立生さん。ぜひお話を伺いたい! そんなラブコールにこたえてくださり、お話をうかがうことができました。



川根本町役場職員時代にお茶と出会った

橋本立生さん、36歳。川根本町の北部に位置する旧本川根地区でお茶を栽培されています。


川根本町のご出身。川根では茶農家でなくとも、小規模な茶畑を所有し、自家用茶を作っているといいます。橋本さんも、自分の家で作ったお茶を飲んで育ちました。新卒で川根本町役場に就職し、役場職員として農業担当になってはじめて、全国品評会トップレベルのお茶を口にします。それは、 川根茶の“レジェンド”として知られる茶師の土屋さん、川崎さん、相藤さんたちのお茶でした。


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たっちゃん「これが究極のお茶なんだ。 いままで飲んでいたのは、お茶じゃなかった。 美味しさに衝撃を受け、“自分も作ってみたい”と思うようになりました。 」


役所の多忙な業務に追われ、役場の仕事に面白さを感じられなくなり、役場を離れることになります。茶の生産に興味はあったものの、生活に不安があり、いったんは町外へ出ます。しかし、役場職員だったころからお茶に興味があったことを知っていた有限会社川根香味園の大村代表に「町外に出て働いているなら、一緒にやってみないか?」と声をかけられました。それがきっかけとなり30歳で新規就農します。最初の2年は、地元の農業経営士さんの元で学びながら、川根香味園の共同工場で働きました。


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(茶畑での作業風景[ご本人提供])



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はやし「就農されていかがでしたか。」


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たっちゃん「初年度から町の品評会などに出してきましたが、最初の1、2年は、欠点を指摘され、『お前役場にいた方がよかったんじゃないか』といわれたりもしました。 でも、ゼロからはじめたので、最初からできないのは当たり前です。欠点は、自分を向上させるためにあるもの。じゃあどうすればいいかと考え、改善してくことは、楽しいことです。 町の品評会に出す意義は、順位を争うことだけではありません。自分の立ち位置の確認ができること。町内のレベルの高い人たちと話す機会がもらえること。(お茶作りの)企業秘密がいっぱいなので、話しても核心に迫ることをいってくれる人は少ないですが、そのなかでも盗めるものは盗んできます。茶畑も見せてくれます。 」


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はやし「お茶をいただいたのですが、はっとする美味しさでした。香りがよくて上品なうま味がある。就農されて間がないと知り、驚きました。」


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たっちゃん「農家は1年間かけて次のお茶を作ります。1年間の努力の証がお茶の味になって現れる。だから、美味しいと言って貰えることが、単純にうれしいです。 (川根本町でのお茶作づくりは)気候にも恵まれていると感じます。標高の高い地域だからこそ、山の香りがでるんだろうなと思います。 川根の土にどういう風に元気な木を育てて、味をのせるか。その技術の差が、それぞれのお茶の味になる。1年に1回しかチャンスがない。毎年どうしようと悩みながら挑戦しています。 」


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(2020年川根本町茶品評会(機械摘み部門)で1等を獲得[ご本人提供])



橋本さんの管理する茶畑は、共同工場の畑と自分の畑をあわせると4ヘクタール。仕事量をこなすことで、技術の向上を感じたといいます。独立して4年目、茶業6年目の2020年、川根本町茶品評会(機械摘み部門)で1等を獲得。徐々に頭角を現し、周囲からの期待も高まっています。



川根茶を残したい そのために

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たっちゃん「川根茶を残していきたい。自分より若い世代の農家を増やしていきたい。そのためには、自分自身が、お茶の面白さを伝えながら、農業だけで食べていけるモデルになることが必要だと思っています」


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はやし「川根は、これだけの銘茶の産地です。今後、生産量減少は避けられないにしても、川根に畑がある限り、川根茶は残るのではないでしょうか。 」


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たっちゃん「このままでは川根茶は残っていきません。いま、川根本町で30代の農家は、僕と鈴木茶苑さんだけです。20代の農家がいません。川根茶といっても格差が大きい。川根茶のレジェンドの方々には「若手に本当の川根茶の作り手がいない」といわれるんです。昔から受け継がれてきた本当に上質な川根茶を、次の世代に渡す橋渡し役になりたい。上質な川根の“ザ・山のお茶・川根茶”を残していこうという若い世代がいない。自分はその役を担っていきたい。」


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はやし「だからこそ、橋本さん自身も、技術をあげていく必要があると?」


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たっちゃん「そうですね。上質な川根茶を残していける技術を持つことが大事だと考えています。」


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はやし「橋本さんの考える“ザ・山のお茶・川根茶”の条件ってなんですか。」


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たっちゃん「ただ旨いだけなら、深蒸しでもできます。うま味が強いのに、香りがある。そして、渋みとの絶妙なバランス。こういうお茶は、山でしか作れません。」



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(かわね茶たつお[左から、かぶせ茶・上煎茶・煎茶スタンダード])


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はやし「思い描くお茶のイメージはありますか。」


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たっちゃん「やはり、役場時代に飲んで衝撃を受けたレジェンドたちのお茶ですね。」


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はやし「橋本さんがレジェンドになるには、あとどれくらいかかりそうですか?」


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たっちゃん「どうなんでしょう。レジェンドたちは、常に向上心をもち、自分のお茶に満足しない。お茶作っている限り、ぼくがレジェンドになることはないです!」


産地に茶畑がある限り、お茶は残っていくものと考えていました。橋本さんのお話を伺ううちに、自分の間違いに気づかされました。川根茶を受け継ぐという強い意志をもち、人生を賭けてその最高峰の技術に挑む橋本さん。そのひたむきな姿に、とても勇気づけられました。川根本町に、茶の匠が息づくかぎり、川根茶は受け継がれていきます。橋本さん、応援しています! 




川根茶たつお 煎茶スタンダード

100g ¥ 1,000(税込)

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品 種:やぶきた

製 法:中蒸し

茶産地:静岡県川根本町

栽培法:慣行栽培

摘 採:機械摘み

製 茶:橋本立生

特 徴:旨味の強いお茶

十分に味の乗った時期に摘採した茶葉を使用し、あえて旨味を前面に出す為、中蒸しという製法で製造したお茶。

早すぎず、遅すぎず、一番いい時期に摘採した茶葉を使用しています。つまり、たつおの基準(スタンダード)となるお茶です。

普段使いから贈り物まで幅広く使用できます。


香り

★★★★☆
旨味★★★★☆
渋味★★★☆☆
水色★★★☆☆
コク★★★☆☆

こちらから購入できます