Loading...

Feb 28, 2020

萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル”


日本茶が大好きですが、上手に淹れられているかどうかとなると心もとない面も。そんな私にとって「しもきた茶苑大山」の大山拓朗さんからうかがった淹れ方は“目からうろこ”でした。今回は、お茶を淹れることへの苦手意識も払拭してくれるこの淹れ方を“拓朗スタイル”としてご紹介します!



簡単で汎用性があるオリジナルの淹れ方を提案

同店は1970年創業の日本茶専門店。若者にも人気が高い街、東京・下北沢に根づく“町のお茶屋さん”です。1階の売り場には日本茶がずらりと並び、2階の喫茶室では、かき氷が大人気。2代目である大山泰成さん・拓朗さんご兄弟はお2人とも、日本茶の鑑定技能を示す段位の最高位である茶審査技術十段に認定されています。この「茶師十段」は現在、全国で15名のみとその偉大さがうかがえますが、お店の雰囲気は至って親しみやすく、1階は拓朗さんが担当。地元の常連客を中心に次々と訪れるお客に試飲茶をふるまいつつ、和やかに会話をしながら接客する姿が印象的です。


萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo

(片側の壁一面に商品がずらり。この向かいに腰掛けがあり、試飲茶でほっとひと息つけます。)



日々店頭に立つほか、日本茶セミナーの講師なども務める拓朗さんは、「『お茶を楽しむ』ということを一番に伝えたい」と語ります。今回ご紹介する“拓朗スタイル”もその思いが根源にありました。「たとえば、セミナーに参加されたある女性が『日本茶を上手に淹れる自信がないから、来客時には紅茶を淹れています』とおっしゃっていたんです。また、日本茶を淹れておいしく感じられなかった時、そのお茶自体が価値のないものだったのかもしれないのに、自分の淹れ方がよくなかったのだと自らを責めてしまう方も。これではお茶を楽しんでいるとはいえないですよね。このような悩みをもつ方をなくすことも、“お茶屋”としての自分の役割だと思っています」と拓朗さん。煎茶の淹れ方は一般的に、湯の温度や煎出時間などが細かく示されることが多いですが、「そうすると、たとえば70℃のお湯とした場合、それ以外はダメなのだとがんじがらめにとらえられがち。また、沸騰させたお湯を70℃に冷ますということを知らず、沸騰前の70℃のお湯を使う方がいる可能性もあります。そして何より大事なのは、お茶を淹れるルートではなく、『おいしい』という結果に着地すること。特別な器具や数字に頼らず、シンプルで誰もが簡単に淹れられ、状態を判断しやすく応用がきき、そして多くの方がおいしいと満足できる幅をもつ淹れ方。それを模索してたどり着いたのが“拓朗スタイル”です。気楽に自信をもって淹れられる“方程式”を身につければ、購入したお茶を自らがジャッジする軸ともなり、好みのお茶を見つけやすくもなり、『お茶を楽しむ』ことにつながります」。



数字にしばられることなく、“よい塩梅”を見た目でキャッチ!

では、具体的に“拓朗スタイル”をご紹介しましょう。

萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo

① 沸騰させた電気ポットの湯を各茶碗の約8分目まで注ぎます。急須には茶葉を大さじ山盛り1杯(約8g)入れ、平らに均します。



萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo

② ①の急須に①の湯を少量、茶葉全体がひたひたになる程度に注ぎます。



萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo

③ 茶葉の変化を観察。茶葉が湯を吸って膨らみ、水面が確認できなくなったら、それが合図!茶葉の色も深緑からキラキラした明るい緑に変わっています。



萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo

④ すぐに①の残りの湯を全量注ぎ(この時、2煎目以降のために湯量が急須の何分目かを確認)、



萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo

⑤ ふたをして速やかに①の茶碗に回し注ぎ(お茶の濃さと量が均一になるように少量ずつ往復させながら注ぐ)をします。



ポイントを説明すると…、

●まず少量の湯を茶葉に吸わせ、茶葉の成分を煎出させやすくします。ポットの湯が熱湯であっても、一度茶碗に移した湯を急須に注ぐぶん温度が下がっており、しかも少量なので、渋みや苦みが勝ちすぎることを防げます。


●ひたひたの湯が茶葉に含まれてほぼ見えなくなった時が、残りの湯を注ぐタイミング。普通蒸し煎茶から深蒸し煎茶まで同じ淹れ方でOK。細く撚れた茶葉のほうが細かい茶葉よりもおのずと吸水スピードが遅くなります。一目瞭然でわかりやすい!


●湯冷まししすぎずに淹れられるので、香りも際立ちます。「香りもおいしいお茶に欠かせない要素です」と拓朗さん。


応用しやすいのも“拓朗スタイル”の特徴です。でき上がったお茶が少し濃すぎると感じたら、次回はひたひたにした湯がまだ少し見えている状態で残りの湯を注ぐようにしたり、逆にもっと濃くしたい時は、次回は茶葉がひたひたの湯を吸水した後、さらに何秒か待ってから残りの湯を注ぐようにしてみるなど、自分の“よい塩梅”に調整できます。


なお、2煎目は電気ポットから熱湯を直接急須に注ぎ、3煎目は再沸騰させてから直接急須に注いで、いずれも速やかに回し注ぎします。1煎目で濃厚な旨み、2煎目ですっきりした渋み、3煎目でさわやかな香り、というように「3煎でお茶を味わいつくす」のもおいしくいただく秘訣だそうです。

※電気ポットを使用。ヤカンなどを使う場合は温度が高めになるのでそのぶん考慮してください。



急須の扱い方でも、お茶の味は変わる

さて、お茶を淹れる時に覚えておくとよいポイントをもう1つうかがいました。

拓朗さんがお茶を注ぎ分ける時、急須を静かに動かしていたのが印象的でした。後で急須(一体成形の陶製のドーム型茶漉しが付いたタイプ)を拝見すると、急須をしっかり傾けていたのにも関わらず、茶葉はあまり注ぎ口に寄っていず、茶漉し部分の3分の2は見えている状態です(A)。一方、わるい例として見せてくださったのは、急須を乱暴に傾けたことで茶葉が注ぎ口に大きく寄り、茶漉し部分が隠れた状態(B)。「Bは茶葉が茶漉しをふさいでしまうので、注ぎ切ったつもりでも急須にお湯が残ってしまいます。Bの淹れ方は、茶葉とお湯が分離して注ぎ口を通るイメージで、コクがない“水っぽい”お茶になります。Aのように静かに急須を動かすと、お湯に茶葉の風味がしっかり“のった”状態で注ぎ口を通り、おいしい濃いお茶に。禅問答のようですが、『目詰まりしやすい急須を、目詰まりしないように操作した時、お茶はおいしくなる』。急いては事を仕損じる、です」。


萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo

A:静かに急須を扱うと、茶葉は平らに近いまま。コクのあるおいしいお茶を淹れるコツの1つ。



萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo

B:荒々しく急須を動かすと、茶葉が茶漉しをふさいでしまう。“水っぽい”お茶になりやすい。



合組とは、お茶を生かしきることでもある

同店の日本茶のラインアップは、静岡産の茶葉も豊富。そのいくつかをご紹介します。

萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo

右から、「茶師十段之茶 拓朗」(普通蒸し煎茶・100g・1620円)、川根茶100%の「沢の華」(同・同・2160円)、川根茶・本山茶・鹿児島茶 各33%の「沢の輝」(同・同・1080円)、島田及び藤枝茶100%の「竹印 深むし茶」(深蒸し煎茶・同・1080円)、藤枝茶・川根茶 各50%の「沢の風」(中蒸し煎茶・同・540円)



「沢の輝」は同店で試飲茶としているベストセラーで、今回の“拓朗スタイル”でも使用。このお茶を基準に“店の味”を伝え、お客の好みを探るそう。自らの名を冠した「茶師十段之茶 拓朗」は、毎年、手頃な価格で最高のコストパフォーマンスを追求し、拓朗さんがその年ごとにお茶を選んで合組(ブレンド)するもので、こちらも不動の人気。旨みや渋みのバランスがとれた飲み飽きしない味、豊かな“山の香気”をテーマとし、2019年度産は川根茶を柱に鹿児島茶を組み合わせています。


萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo

(お茶を鑑定中の拓朗さん。研鑽を重ね、2003年に史上2番目、東京都初の「茶師十段」に。)



茶師十段として合組を手がける拓朗さんは、合組についてこう語ります。「はじめから“合組ありき”ということではありません。“シングルオリジン(単一品種・単一農園)”の上質なお茶は、もちろんすばらしい。でも、香りや旨み、渋みなどすべてにおいて非の打ちどころがない上質なシングルオリジンは多いとはいえず、だからこそ希少性や価値があるといえます。一方、合組は、めざす味わいや多くの人の嗜好に合う風味を的として、パレットで絵の具を調合するように、香りや旨み、渋みなど、さまざまな特徴をもつ茶葉を組み合わせ、多くの魅力を兼ね備えたお茶をつくること。それは、お茶農家の方々の努力が報われるように、お茶を生かしきる方法ともいえます。たとえば、完成度は高いのに何らか1点の欠点により総合的な評価を保てない製品に対して諦めたくない。合組という手法で補完することの可能性を否定したくないのです」。


合組や鮮度を保つ保管、お客の声を聞き「お茶を楽しむ」人を増やすこと…。“お茶屋”の使命とは何かを考え、真摯に取り組む拓朗さん。常に「一歩でも成長し続けたい」と努力を惜しみません。


萬歳公重の「東京で出会う、心ときめく静岡茶」vol.8 「しもきた茶苑大山」の“お茶を楽しむ淹れ方~拓朗スタイル” photo



---------------------------------------

しもきた茶苑大山

東京都世田谷区北沢2-30-2

tel 03-3466-5588

10時~20時、水曜 ~18時

無休(1月1日を除く。また年末年始は営業時間の短縮あり)

※2階の喫茶室の営業時間・定休日はHP参照

shimokita-chaen.com

---------------------------------------