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Mar 29, 2019

林夏子の「はてしないお茶物語」 vol.6「これがぼくらの静岡茶、現在進行形」座談会レポート 後編



お茶の向こう側に見えるものをデザインする(岩崎さん)

林夏子の「はてしないお茶物語」 vol.6「これがぼくらの静岡茶、現在進行形」座談会レポート 後編 photo


静岡市の静岡茶市場の周辺に広がるお茶の問屋さんが軒を連ねる茶町。そこで製茶問屋を営む岩崎泰久さん。岩崎製茶さんは旧来のお茶のイメージを覆すような商品開発が魅力。緑色のお茶だから緑色のパッケージではなくその先に見える景色や楽しさをデザインすることが大切、とおっしゃる岩崎さん。


今回お持ちいただいたお茶はカップにお湯を注ぎ、揉みだしながらいただく「ハグコーヒーホウジチャ」。カップを揉みだすという体験も、コーヒーとほうじ茶の組み合わせも初めての体験です!


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1.お湯を注ぐ


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2.揉む



岩崎さん 「僕ら茶商の役割として、伝統を守ることと同時に、ニーズや食生活が変わっていく中で消費者のニーズにアジャスト(調整)して商品を提供することも大切な仕事だと思っています。このもみだし茶は『揉む』というアクションに興味をもらったり、パッケージに興味を持ってもらったりと、普段はお茶を飲まない方でもわくわく感で手に取ってもらえたらと思い開発しました」


高津さん 「薗田さん、楽しそうにいじっていらっしゃいますが、どんなことを思いながら?」 


おっちゃん 「生産管理という面ではどのようにされていますか」


岩崎さん 「今30軒ほどの農家さんと取引をしていて、99%望んだお茶を作ってくれています。これは残りの1%の話ですが、基本的に茶農家さんは個性豊かで頑固。『もうちょっとこうしてよ』といって応えてくれた年はなく(笑)、みんなプライドをもってお茶を作っています。それが細胞の一つ一つのようにその組み合わせで岩崎製茶のお茶にオリジナリティが生まれているのも事実です。 



お茶とは「たすき」だとおっしゃる岩崎さん。その心は。



岩崎さん 「茶業を駅伝に例えると、生産農家さんが(畑の栽培の)1区から(茶摘み、荒茶工場での製茶の2区から8区まで)運んできてくださった茶葉(たすき)を9区で受け取り、荒茶から仕上げ茶へ姿をかえ、10区のアンカーである消費者やお取扱店に届けるのが茶商の役割。その時間のほとんどを茶葉は、生産農家と過ごし、お茶問屋がかかわる時間も影響力も、生産農家さんのそれと比べればごくわずか。それでもアンカーにつなぐ9区の役割は非常に重要だと思っています」


ハグコーヒーホウジチャ 500円(税抜)

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若者に人気のハグコーヒー(静岡市)とコラボレーションした商品。県内産のほうじ茶と、ハグコーヒーのコーヒー豆をブレンド。カップにお湯を注ぎ、底の部分に内包されたティーバッグをもみ出しながらいただく。揉みだし茶のパッケージは1980年代の東海道新幹線の駅弁と一緒に売り出されたもの。

●マルヒデ岩崎製茶 http://plustea2010.shop-pro.jp/



美味しいお茶とは何か、分かりやすさを提示(安間さん)

教員・ライターを経て、袋井市の茶農家に婿入りした安間孝介さん。農林大学校での勉強を経て現在茶業4年目。

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安間さんがご持参くださったのは、白葉茶(はくようちゃ)。日光を100%遮って栽培するため、葉が白っぽくなります。濃厚な旨みと甘みが楽しめる高級茶。

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安間さん 「茶業に入る前はペットボトルのお茶しか飲んだことがなかったような自分が交際中だった妻の淹れたお茶の美味しさに驚き、お茶農家を継ぐことを決意しました。当時は東日本大震災後の静岡茶に対する風評被害もあり、厳しい状態からのスタートでしたが、だからこそやりがいを感じています。毎日たくさんのお茶を飲んで「美味しいお茶とは何か」を考えていますが、一定以上の品質になるとどれを飲んでも美味しいと感じます。消費者にとって分かりやすく差別化ができるという点に着目し、白葉茶を研究しています」


向島さん 「婿さんとして入って、もうやめてやろうと思ったことはないですか。先代のやり方を押し付けられて、ギクシャクしてしまったりという話を聞くので」


安間さん 「幸運なことにうちではないですね。自分が入った段階で茶商さんからの要望を聞き、従来の製造方法を変えました。そこからは栽培を義父に教えていただきながら、私一人で製造をしているので、そういったことはありませんでした」



袋井は茶産地としての歴史は古いものの、地域に茶商がほとんどおらず、主に掛川や森の茶商が買い手。実際に年々茶価が下がり、「いいお茶を作っても売れない」という近隣の生産者の悲鳴も。そんな中茶商さんを回ったり、できることをその分野の専門家に聞きながら色々なことに挑戦されている安間さん。今年も白葉茶のクラウドファンディングに挑戦される予定だそうでこれからのご活躍が楽しみです!


つきしろ 30g 3000円(税抜)

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白い葉のお茶「白葉茶(はくようちゃ)」は、近年開発されたばかりの新しい商品。茶葉の色の白さと強烈な旨みと甘みが特徴。

●安間製茶 http://www.ammaseicha.com/ 



緑茶の原点を探っていきついた「大川大間茶」(中村さん)

最後にご紹介するのは、静岡市の山間地・オクシズと呼ばれる地域、奥藁科(おくわらしな)地区「大川大間(おおかわおおま)」の中村敏明さん。中村さんは標高720メートルの秘境でその大川大間茶を作り、月2回の縁側カフェを開催している。

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大川大間茶の氷出し(ロック)で呈茶していただきました。

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皆さんにご試飲いただいたのは豆茶碗にほんの一口ですが、うま味と香りに衝撃を受けたとの声も。



日本茶インストラクターのあかねさんに大川大間茶のコメントをいただきました!

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あかねさん 「おっちゃんのお茶は独特の旨味と風味。旨味と、あの山々の木や土を通ってきた水から生まれる、森の味がしますね」



昔から大川大間を含む本山地区は銘茶の産地として知られています。しかし、大川大間は標高が高く新茶時期が5月半ばから6月にかけてと大変遅く「出荷の時期」だけで勝負すれば、早く出された茶葉と比べ、安い価格でしか売れません。



おっちゃん 「『大川大間』という土地でどうしたら単価の高いお茶を作ることが出来るか原点に返って考えてきました。本山茶の原点って何だろうと考えた。本山地区はもともと干椎茸の栽培も盛んな土地。『新鮮なものは届けられないが、新鮮なものを加工したものを届けられる』地区だと気が付き、原料である茶葉の鮮度にこだわったお茶作りをしています。


 

増産することも試みた時期があったそうですが、一緒に作業していたお父様が倒れたことで断念。それをきっかけに、生き残りゲームだとしたら何ができるか、ということを強く意識したお茶作りを始められたと話す中村さん。



おっちゃん 「僕が元気なうちに若い人にどうしても伝えたいのは、緑茶の原点を探ってくださいということ。 」



原点を大切に静岡茶の味を守って欲しいと熱くお話くださいました。


大川大間茶 粋 90g 2000円(税抜)

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静岡市大川地区の最北、9人の「大間集落」 2008年より、第1.第3日曜日に「縁側お茶カフェ」が開催されています。 おっちゃんの大川大間茶も購入できます。


●大間縁側お茶カフェnext  https://www.facebook.com/oomaengawanext/



座談会に静岡の丸子紅茶の村松二六さんがオブザーバーとして参加してくださいました! 


村松さん 「若い人がどんなことを考えてお茶を作っているか、聞きたくて今日は伺いました。今日は話を聞けて参考になりました。ありがとうございました」



\まとめ/

今回お集まりいただいた皆さんの自慢の美味しいお茶をいただけました。一言に「美味しい」といっても広い静岡の産地の特性や栽培方法、加工工程によって味わいは広がりがあり、実に豊か。共通していることは、どのお茶もお茶作りへの信念がお茶の味となって現れていること。今回お集まりいただいた皆さんは信念を持ったお茶作りに加え、どの方も20代~30代(向島さんは10代)という若い年代でバトンを渡され、苦しみながら新しいものを生み出してこられた方という共通点も感じました。静岡茶がますます好きになりましたし、これからの静岡茶がますます楽しみになりました!


お忙しいところご参加いただきました皆さま、ファシリテーターをしてくださいました高津真さま、会場をお借りしましたd-labo静岡さま、運営にご尽力いただきました茶業会議所の守安さま、呈茶をしていただきました日本茶インストラクターの皆さま、ありがとうございました!