Jun 25, 2019
林夏子の「はてしないお茶物語」 vol.9 お茶を楽しみ茶縁をつなぐ場所~森内茶農園土間カフェ
静岡駅から車を走らせること25分ほど、安倍川下流右岸、内牧川上流に位置する「内牧」の森内茶農園へ森内吉男さん・真澄さんご夫妻を訪ねました。
静岡を代表する銘茶のひとつ、本山茶
静岡茶のはじまりは鎌倉時代に臨済宗の高僧・聖一国師(しょういちこくし)が安倍川の上流、足久保に中国から持ち帰った茶の種を植えたと伝えらえています。このことを記した同時代の記録はありませんが、南アルプスから駿河湾へと静岡市を縦断する安倍川とその支流である藁科川の流域周辺では早くからお茶の栽培がされ、この地域で産出されるお茶は静岡を代表する銘茶のひとつ、「本山茶」と呼ばれています。
「本山茶」はなんて読む?
「もとやま」? 「ほんざん」? 「本山茶」はどう読むのかご存知ですか。
正しくは、「ほんやまちゃ」と呼びます。
もっとも、静岡市内の地図に「本山」という地名はありません。本山茶には、多説あるようですが、明治末期から大正初期、茶の栽培がおこなわれるようになった静岡市南部の産地(新山)に対抗する名称として、「聖一国師以来の伝統あるこちらこそが本場のお茶、本山茶だ」と気概を持って名付けられたそう。当時の産地を支える生産者や茶商のプライドや対抗心が忍ばれ、とても興味深いエピソードです。
地形的に本山茶の生産地をみてみると、茶園のある安倍川と藁科川の流域の山では、立ち上る山霧と川霧が天然の覆となりうま味を、寒暖の差の大きいことが薫り高いお茶を育てます。さらに水はけがよくミネラルの多い土壌。高級茶づくりの自然条件を兼ね備えたこの土地に茶の種を植えた聖一国師に改めて敬服の念を抱きます。
(本山茶の産地・内牧)
森内茶農園のある内牧も本山茶の生産地のひとつ。ここ内牧は駿河記によれば江戸時代に松・杉・竹・筍・梅・柿などとともに茶もつくられていたことが記され、古くから茶の栽培を続けられてきた土地です。
森内家も江戸時代から茶の栽培製造をしてこられ、当代園主・森内吉男さんは9代目。
内牧の地区には全国品評会で入賞を競いあうようトップレベルの茶師の中で技術を研鑽してこられました。ご夫婦ともに数々の品評会で受賞を重ね、皇室献上茶茶園の指定を受けたご経歴もあるそうです。リーフの茶価が低迷しはじめた20年前から収量を減らし、手間暇をかけた高品質の茶づくりに取り組んでこられたとおっしゃいます。ご家族で営まれる小規模な茶園にもかかわらず、高品質のお茶を求めて日本をはじめ、世界中の企業やバイヤーと取引があります。
はやし 「大阪でも森内さんのお名前を何度か聞きました。小規模の生産者さんが目標にしたいと思っていると思います。心掛けていらっしゃることはあるのでしょうか」
森内さん 「誰もやりたがらないことをやるようにしています」
真澄さん 「すきま商売でございます」
くったくなくとても気さくなご夫婦ですが、お茶と格闘してきた膨大な時間や、数々のご苦労を乗り越えてこられたからこそ、素晴らしいお茶が作られるのだろうと思います。
森内さん 「出来栄えの悪いものは出せないからね」
新芽の状態を確認しながら製茶したり、一方で作りたいお茶にあった茶葉をつくるため畑の段階からこだわって栽培。 他の茶園の茶葉は使用しないのだそう。さらに摘み取った茶葉を新鮮なうちに製造。大量生産はせず、少量を腕によりをかけて作り上げられるお茶。いったいどんなお味なのでしょう!
エクアドルからお客様が! 茶縁をつなぐカフェ
ちょうどエクアドルからチョコレートに合わせる茶葉を探しやってこられたカカオ研究家の高橋力さんが土間カフェにいらっしゃいました。
全国茶品評会入賞茶(普通煎茶 4キロの部 3等入賞茶)をご相伴にあずかりました。
(うつくしい茶葉)
(1煎目は低い温度で)
(茶葉は茶ノ実油と岩塩で)
彼が入賞茶をひとくち口に含んだ瞬間、目が輝きました。
高橋さん 「まるでおだしをいただいているよう」
森内さん 「本当にいいところしか掴んでいませんから」
2煎目は少し高めの温度でいただきます。
森内さん 「温度と茶葉の開き具合によって味わいが変わります」
高橋さん 「まさにわびさびですね」
2018年 全国茶品評会 入賞茶 15g 1,000円(税別)
雑みのない上品な甘みは、品評会受賞茶ならではの味わい。
火入れは、遠赤外線効果のあるこだわりの「炭火いれ」。一般市場では、入手できない品評会入賞茶をぜひご賞味ください。
同じ茶葉からこんなにバリエーションが!
森内茶農園では、不発酵茶(煎茶)・微発酵茶(包種茶)・半発酵茶(烏龍茶)・発酵茶(紅茶)を作られていますが、原料になる茶葉は同じ。技術があれば、紅茶も烏龍茶も作りだせるのです。
高橋さん 「カカオの世界ではありえないこと。すごいなぁ。面白すぎる!」
定期的に開催される「お茶に親しむ会」やイベントを通じて、お茶の美味しさや楽しみ方を伝えてくださっています。気さくなご夫婦からお茶をいただきながら伺うお話もまた格別。
真澄さん 「ここはお茶の愉しさを伝えるだけでなく、訪れた人同士のご縁(茶縁)につながる空間でありたいと思っています」
国内だけではなく、世界中から多くのお客様が訪れる素敵な場所になっています。
今年の新茶も始まっています
大切に作ってこられた新芽を丁寧に摘採し、新鮮なうちに製茶した新茶の販売も始まっています。ぜひ今年の新茶をお楽しみください。
最高のローカルは最高のグローバルである
最高のローカルは最高のグローバルである
エクアドルからはるばるやってこられた高橋さんがそんな言葉を教えてくださいました。ここにしかないものがあるから、世界中から人が集まる。
素晴らしいお茶と茶縁に感謝。ありがとうございました。
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\森内茶農園はこちらからチェック/
●住所 〒421-2118 静岡県静岡市葵区内牧705
●電話・FAX 054-296-0120
●ホームページ:http://www.moriuchitea.com/
●Facebook:https://www.facebook.com/oisiiocha/
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高橋力さん
カカオ研究家。南米エクアドルに移住し、有機農法を追求されています。
●facebook:Takahashi trading and investigations
▼参考文献
中村 羊一郎(2012)『しずおかの文化新書6 お茶王国しずおかの誕生』静岡県文化財団
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